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大使講演会


フィンランド大使(ユリーン大使)による講演会

2006年12月5日に開催した第5回大使講演会に対する感想

この度ユリーン大使閣下におかれましては、ご多忙の折、わが上智大学にお越しいただいたことを感謝いたします。 また、このような機会を設けてくださった、理工学部伊藤教授とソフィア会、ならびにSELDAA事務局の皆様に御礼申し上げます。

日本にとってフィンランドという国は、まだ直接的な関係が薄く、他のヨーロッパ諸国と比べてもどこか遠い存在でありがちですが、 抜群の知名度を誇っています。それは多分に、今回の講演会の副題ともなった、教育と環境配慮に長けた経済発展において優れた 実績を残してきたからでしょう。大使閣下のお話を伺って、日本に欠けている経済大国としての資質と責務について改めて考えさせられた思いが致します。

閣下は非常に落ち着いた物腰で、淡々とお話しくださいました。テーマを「経済と環境」に据えて、フィンランド共和国の現在の 社会・経済情勢および国際社会からの評価について解説していただいた後、どのようにして発展の一途を辿ったのか、大使ご自身がお考えの5つの要因―すなわち

  1. 質の高い教育
  2. 研究開発への投資
  3. 政府による適度な規制と能率ある公共政策
  4. 開かれた経済
  5. 労働力に手厚い政策
―へと話は展開していきました。

経済発展あっての環境保全、という考え方が大手を振るってまかり通っていた四半世紀前の時点で、確固とした社会保障制度に基づいた男女共同参画社会と、 環境に根ざした地域水平発展構想を描いていたフィンランド。大使閣下は、そのフィンランドが日本と大幅に異なるのは、政府公共機関の効率性と透明性だと ご指摘になられました。

現にフィンランドは、世界で最も政治腐敗の少ない国と知られています。そう伺って、始めのうちは、第一次世界大戦直後からの、 長い民主主義の歴史がそうさせるのかと考えました。しかし一方で、公共部門は民間部門に規制を加えてきたことが経済の発展を 促進したともおっしゃるのです。

つまり、自由市場や人的資源開発部門への政府の積極的介入に民間が反対しなかったのは、その政策が多くの賛同を得るものだったこ と以上に、官民共に長期的な視点を具えて健全な信頼関係を築いてきた点にあるのではないでしょうか。

我々の住む日本では、教育再生と実感ある経済成長/格差社会の解消が大きな懸案事項となっています。毎日の報道では、 政治家による汚職ないし談合事件の実態が無様に露呈されています。そして、小泉前首相の行った郵政民営化は公共部門の効率の 悪さを改めるものでした。フィンランドの場合はこれとは対極にあり、謂わば、効率の良い公共部門が民間部門の更なる発展に 寄与しているという構造が垣間見られました。

環境問題に対する積極的な取り組みについても同様です。世界でトップの持続可能な開発指数を誇り、京都議定書を全面的に 支持する姿勢からも伺えるように、フィンランドの環境保全への感心は非常に高いものです。民間企業は、研究機関の叡智と政府の 多大な研究開発投資、メディアによるPR協力を得て、環境破壊の伴わない経済発展を実現しているのです。こうした道徳美を観念に 終わらせない社会は、将来を担う子どもに幅広い見識と責任感を養わせる、画期的な教育制度が醸成するところである、 と強く感じました。

教職課程を履修すると、度々OECD学力テストでフィンランドが優秀な成績を残したことが話題に上るのですが、 閣下にご紹介いただいた、博士課程を修了した者のみが教師の資格を付与される制度、親が教育へ寄せる関心の高さの他にも、 初等教育段階から専科担当教師が授業準備に勤しみ、定期的に授業評価と研修期間を設けるなど、入念な計画が練られているようです。

国際関係を学ぶ私から、余りあるフィンランドの魅力をもう一つ付け加えさせていただくならば、G8などの大国とは一線を画した歩みを 続けながら、周辺諸国から尊敬を集めてきた、多角的アプローチが挙げられます。国の人口や経済の規模も穏当で、軍事同盟を 一切持たない国家が、国際社会においてこれだけの存在感を持つことは、難しいと考えられてきましたが、 フィンランドは圧倒的な反例を示してきました。

特に、広く知られている破綻国家への経済援助や平和維持の活動は、日本がその経済力に見合った関わりを充分持ってこなかった分野で、 大いに学ぶところがありそうです。今夏、EU議長国のお役目が回ってきたフィンランド共和国は、一層EU諸国に道義的責任について 働きかけていくでしょうし、その波は既に日本の海岸線に到達しているのです。

日本政府は、いや責任を分かち合うべき社会全体は、こうした変革の波に乗ることができるのでしょうか。大使閣下は、 フィンランドのモデルを強要することなく、世界共通目標の達成のために、各国がふさわしいモデルを追い求めることを提言してくださいました。 講演会に参加して、「国民一人ひとりが、表面的な議論ではなく、一歩掘り下げた意見交換をできるだけの知識と分析能力を養わねばならないのだ」 という危機意識を植え付けられたのは、私だけではなかった筈です。

※興味を持たれた方は、是非駐日フィンランド大使館のウェブサイトを http://www.finland.or.jp/ja/をご参照下さい。ユ リーン大使閣下の挨拶文も掲載されています。

外国語学部英語学科4年 伊藤宏司

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